大阪高等裁判所 昭和34年(ラ)266号 決定 1960年3月19日
抗告人(債務者) 延原さだ
相手方(債権者・新競落人) 株式会社七福相互銀行 (利害関係人・元競落人) 小池貞代
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第一、抗告人の抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
第二、当裁判所の判断
本件は、再競売を命じた決定にたいすい異議を却下した決定にたいする再審の申立であるが、およそ異議は、当該手続中においてその違法を是正する方法であるから、その手続がすでに終了してしまつた後においては、権利を侵害せられておれば、別訴によつてこの結果の除去を求めうべきにとどまり、方法にかんする異議によつては、これを是正する利益はもはや存しないのである。本件競売手続は、再競売の実施により、すでに競落許可決定確定し代金支払及び配当期日も終了して手続の完結していることは、一件記録により明らかであるから本件再審申立はすでにこの点において不適法たること明かであつて、この申立を却下した原決定は結局正当に帰し、本件抗告は理由がない。
よつて抗告費用につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のように決定する。
(裁判官 沢栄三 木下忠良 寺田治郎)
請求の趣旨
昭和二八年(ケ)第一三四号不動産競売事件に関する申立人(相手方)申立人株式会社七福相互銀行(相手方)相手方小池貞代(申立人)間の再競売決定に対する異議申立事件につき、昭和二十九年十月二十九日なしたる決定は取消す。
前項の不動産競売事件につき、昭和二十八年八月十六日なされた再競売決定はこれを取消す。
旨の御裁判を求める。
請求の原因
一、貴庁は昭和二十九年十月二十九日、申立人(債務者兼所有者)と相手方株式会社七福相互銀行(債権者)(以上単に相手方七福相互という)との間の左記建物(以下単に本件建物という)に関する昭和二八年不動産競売事件(以下単に本件競売事件という)につき相手方小池貞代が申立てた貴庁の同年八月十六日附の再競売決定に対する異議申立に対し、「本件異議の申立を却下する。申立費用は申立人(申立人小池)の負担とする。」
旨の決定をなした。
記
神戸市生田区三宮町一丁目二十二番地の二地上
家屋番号同町二二三番の二
一、木造瓦葺平家建 店舗 壱棟
建坪 十八坪八合
二、右決定の理由は大要次の通りである。
神戸市建設局整地課長塩見良慎の昭和二十九年十月十一日附、回答書、大道久延審尋の結果によると、本件競売の目的物である前記家屋は本件競売申立以前昭和二十八年三月二十日から約一カ月間特別都市計画法による土地区画整理事業施行のため、神戸市生田区三宮町一丁目二十二番地の二から二を距てたその換地予定地同区元町附近四十一ブロツクの二に移転されたものであるが移転後の建物には、移転前の建築材料全部を使用し、その構造、坪数、用途等は前後全然同一で、その建築費用金二四三、六五〇円は全部区画整理施行者である神戸市長において補償したものであることが疎明せられる。すると本件建物は社会通念上、移転前の建場と同一性を有するものと認められる。したがつて抵当設定当時の目的物件が滅失したことを前提とする本件申立は理由がないからこれを却下し、申立費用につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり決定する。
三、然るに、本件建物の建築材料を以て、換地予定地と称せられる神戸市生田区元町通三丁目一二三番地に建築せられた二棟の家屋は訴外中村トヨ子及び訴外杉野裕子が自己の所有家屋として建築したものである。そして又、本件建物が換地予定地と称せられる場所に移され、建築されることにつき本件建物の所有者である申立人は全く関知しなかつたのである。
右中村トヨ子はその建築した木造瓦葺平家建店舗兼居宅建坪七坪六合七勺につき、昭和二十九年十二月二十九日、家屋新築申告を神戸地方法務局になすと共に、右家屋につき、保存登記をなした。
右杉野裕子はその建築した木造瓦葺平家建店舗建坪十一坪六合五勺につき、昭和三十年三月十四日、家屋新築の申告をなすと共に、同月十八日保存登記をなした。
四、申立人所有の本件建物が換地予定地と称せられる場所に、前記決定のなされた昭和二十九年十月二十九日、移転したことについては、本件建物の登記には記録されていなかつたのである。債権者である相手方七福相互は本件建物に関する本件競売事件を強引に続行し、全く存在しなくなつた本件建物を自ら競落して、その旨昭和三十年二月十六日、貴庁をして職権により登記せしめた。然るに右相手方は昭和三十二年四月十四日、生田区役所を経由し、神戸地方法務局に、昭和二十八年四月二十一日の取毀を原因とする本件建物に関する家屋滅失申告をなすと共に、同月二十五日、滅失の登記をなしたのである。
五、貴庁が相手方小池のなした本件競売事件に関する異議事件を審理するに当つては、本件建物が換地予定地と称せられる場所に移転建築されたについては、何人が如何なる意思を以てなしたものであるか、移転したことにつき登記に変更がなされているか否かは「判決ニ影響ヲ及ボスベキ重要ナル事項」であるから当然判断しなければならないのである。然るに貴庁はこの判断を遺脱したのである。
前記決定には民事訴訟法第四二〇条第一項第九号により再審の理由がある。それで同法第四二九条により、本申立に及ぶものである。